イタリア料理の歴史と伝統


イタリア料理は、実に2000年もの歴史があり、当時から非常に高度な食文化を持っていました。しかしイタリア料理の歴史を知っている人はそう多くありません。歴史や伝統を知ることで、より一層イタリア料理に対しての理解を深めることができるはずです。

 

―イタリア料理の起源と食材の起源

イタリア料理の起源

イタリア料理の歴史は非常に古く、古代ローマ時代にさかのぼります。当時のローマ人は食事の時間を大切にし、1日3食を取りいれるなど、食事にかける時間を大切にしていました。

またその内の1食を、現代にあたるプリモ、セコンドに似たコースで構成することで、2時間から3時間をかけてじっくり堪能していたのです。さらに古代ローマ人は、満腹になった場合であっても、食べたものを意図的に吐き出して空腹状態をつくりまた食べるといったことを行っていました。そういった背景から古代ローマの哲学者セネカは、「ローマ人は食べるために吐き、吐くために食べる」と表現しています。

当時の主食は、プルスと呼ばれる小麦粉を煮込んで作られたお粥です。料理に使う調味料は、魚を発酵、熟成させて作った魚醤に酷似したガルム、サーパと呼ばれる甘味料やハチミツなどが用いられていました。そして裕福なローマ人たちの間で、優秀な料理人を呼び寄せ、作らせた料理を客に自慢するといったことが流行していたのです。

以上のようにイタリア料理は2000年前にもかかわらず、非常に高度な食文化を持っていたのです。そしてチーズや牡蠣はローマ遠征の際、兵士のスタミナ食として携帯されていました。そのことが発端として、ローマ帝国の発展とともに欧州各地に普及し、他国の追従を許さないほどの食文化の発展に繋がったのです。

 

食材の起源

一方、イタリア料理の発展の裏には、歴史の表舞台に出ない人々の努力もあります。そして料理に使われる食材も、他国からの影響を受けたからこそといっても過言ではありません。特にアラビア人との接触は、イタリア料理の進歩に対して大きな影響を与えたのです

たとえば、オレンジ、サトウキビ、米やサフランといった食材です。イタリアの料理人たちがこれら未知の食材に関心を抱いたことで、イタリア料理全般に刺激をもたらし、さらなる進化を果たしました。また他の食材を作るための農業も発展するなど、料理以外の分野も飛躍し、確固たる地位を築きあげたのです。アラビア人の影響によりその後、米は広大な水田地帯で大規模な生産が始まり、シャーベットも普及するようになったのです。

 

―イタリア料理のその後

古代ローマ帝国は、476年にゲルマン民族の侵略により滅亡し、その後も多民族からの侵略を受け続けることになりました。しかしイタリア料理の文化や技術は、衰退することなく受け継がれています。

 

パスタとトマトの出会い

12世紀から13世紀になり、現在のパスタの原型として、手打ちの生パスタが誕生しました。そして14世紀には、パスタを専門に生産する業者も現れるようになり、生パスタをスープに入れたり、ゆであげたパスタをソースにからめたりと、一般家庭にも次第に普及することになったのです。

そして15世紀にはパスタの元祖である、棒状の乾燥パスタが作られます。16世紀にもなると、パスタ圧力機械が発明され、従来手作りされていたものを押し出す製法に変わりました。そして大航海時代を背景に、ナポリにトマトがたどり着きます。トマトは当初は観賞用として扱われていましたが、ナポリ人たちが品種改良を重ねることによって、18世紀に食用として扱われるようになったのです。結果、パスタとトマトの組み合わせは一気に広まり、現在に通じるイタリア料理の原型を形成するまでになります。

19世紀になると人工乾燥機が発明され、パスタの生産性が大きく向上することになります。生産性が大きく向上することにより、欧州各国だけでなく米国まで輸出されるようになったのです。それに合わせ、1880年から1920年の間に400万人の南イタリア人が米国に移り住み、イタリアの食文化も輸出するようになりました。そして米国に移り住んだ南イタリア人を原点として米国にイタリア料理が広がり、現在ではアメリカの第2の国民食として認識されるまでになったのです。

 

日本のパスタ事情

パスタが日本に初めて登場したのは、幕末の横浜外国人居留地です。その後、明治時代には輸入パスタが食べられていましたが、それは一部の愛好家の間だけであり、また一般的な普及はしていませんでした。

昭和30年にマカロニが発売されたことで、一般人にも広く認識されるようになり、日本でも大量生産が始まったのです。そして現在では、スパゲティーと呼ばれ多くの日本人に食べられる料理になりました。

 

―現在のイタリア料理の食文化・日本のイタリア料理

主食はパンの地域がほとんどですが、イタリア北部ではトウモロコシの粉から作ったポレンタを食べる地域もあります。またイタリア南部はトマトを多く使用する傾向があり、北部はバターや生クリームを主体として使う傾向があります。そして沿岸部では魚を食べますが、内陸部で食べることはほぼありません。

一方で、食事にワインを合わせることは共通しており、基本的にその土地独自のワインが飲まれる傾向があります。またコーヒーの消費量が多いことも特徴で、エスプレッソやカプチーノ、カフェラテなどが好んで飲まれているのです。

なお現在のイタリア料理は世界中において、中国料理に次いで食べられている料理となっているのです。近年は、イタリア料理の習慣や文化の崩壊に危機感を感じたスローフード協会が、スローフードの概念を発信しています。そうすることで、イタリア料理の風味や豊かさを再認識してもらおうと、さまざまな活動をしているのです。以上のことによりこれからの時代もイタリア料理は、高度な食文化の発信基地といえるでしょう。そして2010年にイタリア料理は、ユネスコの無形文化遺産として登録されました。

 

日本のイタリア料理

イタリア料理は日本では、イタリアンやイタ飯と呼ばれて多くの人に認識されています。日本で認識されている特徴として、トマトやオリーブオイルを使った料理が多い傾向にあります。しかし実はこの特徴は、ナポリといった南イタリアの料理の特徴です。

先述したようにイタリア料理は、地域によって使う食材が異なります。したがってイタリア料理の総体としては、素朴な料理が多いといえるでしょう。

 

―まとめ

イタリア料理のテーブルマナーなどは知っていても、イタリア料理の歴史や伝統を知っている人はそう多くありません。しかしその歴史や伝統を知ることで、なぜこういった調理法をするのか、なぜこういった食材を使うのかなどが腑に落ちて理解することができるのです。したがって、知っておいて決して損ではないでしょう。